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概要:内田稔 三菱UFJ銀行 チーフアナリスト [東京 27日] - 円高が進んだ場合、日銀は本当に追加緩和に踏み切るのだろうか。追加緩和手段は残されているのか。また、追加緩和に踏み切るとすれば、どの程度まで円高が進んだ場合か。そして、最も気になるのは、追加緩和で円高を阻止できるのか──。 19日の衆院財務金融委員会で答弁した黒田東彦日銀総裁の発言に、改めてこうした疑問を抱いた市場参加者は多数いることだろう。 円高が進んだ場合、追加緩和を行う選択肢がある
内田稔 三菱UFJ銀行 チーフアナリスト
[東京 27日] - 円高が進んだ場合、日銀は本当に追加緩和に踏み切るのだろうか。追加緩和手段は残されているのか。また、追加緩和に踏み切るとすれば、どの程度まで円高が進んだ場合か。そして、最も気になるのは、追加緩和で円高を阻止できるのか──。
19日の衆院財務金融委員会で答弁した黒田東彦日銀総裁の発言に、改めてこうした疑問を抱いた市場参加者は多数いることだろう。
円高が進んだ場合、追加緩和を行う選択肢があるかと問われた黒田総裁は、「経済、物価に影響が出て(2%の)目標達成に必要ならば、緩和を検討する」と述べた。
一部では、これが追加緩和の可能性を示唆したメッセージと解釈され、ドル/円が20─30銭ほど上昇する場面がみられた。
そこで、本稿では過去の経緯も踏まえ、これらの疑問に対する考え方をまとめておきたい。
<追加緩和に踏み切る可能性は>
まず、円高が進んだ場合、日銀は追加緩和に踏み切るのか。これは「イエス」だろう。なぜなら、日銀のみならず、2012年に復帰した安倍晋三政権が、デフレの主因を日銀の金融緩和不足と円高に求める経済政策のブレーン、浜田宏一内閣官房参与の影響を強く受けているからだ。
例えば、浜田氏は著書「アメリカは日本経済の復活を知っている」で、「20年もの間、デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来する」と主張し、日銀が「円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生み出している」と指摘。「年間3万人をこえる自殺者も金融政策とまったく無関係ではない」と述べている。
つまり、安倍政権のデフレ脱却策は、日銀の「異次元緩和」とそれによる「円高阻止」に強く依存してきたと言っても過言ではない。実際、政府と日銀は2013年にデフレ脱却と持続的な経済成長の実現をうたった共同声明を公表している。円高を阻止する為替介入の陣頭指揮を執った経験もある元財務官の黒田氏が、日銀総裁に就任したことも決して偶然ではなかろう。
<緩和手段はあるか>
次に、日銀に追加緩和の手段が残されているのか。これも答えは「イエス」だ。
日銀は2016年9月、追加緩和手段として、1)短期政策金利の引き下げ(マイナス金利の深堀り)、2)長期金利操作目標の引き下げ、3)資産買い入れの拡大、4)マネタリーベース拡大ペースの加速という4つのメニューを示している。また、2018年7月に改めて導入した政策金利のフォワードガイダンスも追加緩和メニューの1つと言えるだろう。
1番目の項目に関して言えば、日銀は現在のマイナス0.1%を下限とは見なしていないはずだ。2番目についても長期国債の買いオペ増額などによって長期金利の引き下げ自体は可能だろう。3番目も国債を中心に、まだ買い入れ対象資産が枯渇したわけではない。場合によっては、外債すら買い入れ対象として真剣に検討されるかもしれない。4番目も資産買い入れ額の調整によって、実現できそうだ。
フォワードガイダンスに至っては、その表現の工夫次第で、追加緩和余地は無限にある。さらに、これら5つの組み合わせ方によって、黒田総裁も指摘してきた通り、日銀の追加緩和手段はまだ豊富に残されていると言えよう。
<引き金となる円高水準>
では、日銀は、どの程度まで円高が進めば追加緩和に踏み切るのか。
無論、一口に円高と言っても、それがドル安主導なのか円高主導なのかによって意味は異なる。円高が進むペースにもよるであろうし、何よりも実質実効為替レートでみてどの程度円高が進んでいるのかによって、日本経済への影響も全く異なってくる。
ただ、日銀短観では2018年度の大企業・製造業の想定為替レートとして、109円41銭が示されている。この水準を越えてドル安/円高が進めば、少なくとも株式市場は業績の下方修正を織り込み始めると見込まれ、市場のセンチメントは徐々に悪化しよう。さらに、昨年末時点のものとして国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)が示す購買力平価はおおむね99円から100円だ。この水準に迫ったり、100円を越えてドル安円高が進む場合、日銀も経済や物価への影響を無視できなくなるはずだ。
以上を踏まえると、まず110円を割り込み、105円に迫る過程で、日銀、財務省、金融庁の3者会合が繰り返され、危機感が共有されていくだろう。そして、105円を割り込むと本邦の当局者から円高けん制発言が聞かれよう。さらに、100円に接近したり、100円を割り込む場面では、実際に何らかの追加緩和策が講じられる可能性が一気に高まっていくと考えられる。
<実際の効果は>
では、こうした円高局面で講じられる追加緩和は、円高を阻止できるだろうか。答えは残念ながら「ノー」ではないか。
その理由は、政策の持続性や効果への疑念、金融緩和の副作用への警戒が高まり、かえってインフレ期待がしぼむ(予想実質金利が上がる)可能性が高いためだ。実際、2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した後、株安と円高が進んだことは記憶に新しい。ただでさえ、市場のインフレ期待を示す10年物ブレークイーブン・インフレ率は現在0.2%近辺と、2016年以来3年ぶりの水準まで低下しており、市場はデフレ回帰の可能性すら視界に入れているようだ。
昨年12月の日銀短観からも、依然として慎重な企業の価格設定スタンスが垣間見える。
また、昨年12月調査の「生活意識に関するアンケート」でも、77.5%の人が、現在と比べて1年後の物価は上がると回答しているが、79.7%の人が、「物価上昇はどちらかと言えば困ったこと」と回答。「商品やサービスを選ぶ際に特に重視すること」の筆頭に、「価格が安い」ことが挙がられるなど、家計のデフレ志向は根強い。春以降、人件費や物流コスト、原材料コストの上昇を踏まえ、食料品などの値上げが見込まれている。その場合、かえって需要が落ち込み、価格が下がり始める可能性が高いのではないか。
確かに、追加緩和が講じられれば、円の名目金利は低く抑え込まれるため、活発な対外証券投資が誘発されよう。一時に比べれば下がったとは言え、いまだに為替ヘッジコスト(3カ月物、年率)は3%近い水準にあり、機関投資家の為替ヘッジ比率も低下傾向をたどりそうだ。
しかし、昨年も似たような環境だったにもかかわらず、円は年間を通じて対ドルで上昇した数少ない通貨の一つだった。このことから、直接投資も含む本邦の対外投資は、円高のブレーキ役にはなっても、円安を先導するドライバーとまではなっていないようだ。さらに留意すべきは、既に米連邦準備理事会(FRB)が、利上げ休止の姿勢を強く打ち出した点だ。これが、ここ数年と比べ、日米の金融政策スタンスの違いを目立ちにくくしてしまっている。
以上を踏まえると、日銀の金融緩和は、円高を和らげることはできるかもしれないが、円高を阻止したり、円安へと反転させたりする「切り札」とはならないのではないか。
*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。
(編集:山口香子)
*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から18年まで個人ランキング1位。
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