深夜に取締役会、週末の目まぐるしい交渉－ＨＳＢＣのＳＶＢ部門買収

英銀ＨＳＢＣホールディングスは、経営破綻した米シリコンバレー銀行（ＳＶＢ）の英国部門に20億ポンド（約3260億円）を注入する計画だ。この舞台裏には、週末の間に目まぐるしく展開された交渉があった。

ＨＳＢＣのノエル・クイン最高経営責任者（ＣＥＯ）と英国部門責任者のイアン・スチュアート氏は13日にロンドンのテクノロジー業界投資家との電話会議で、１ポンドで買収することになったＳＶＢ英国部門が通常通り業務を継続できるよう数十億ポンドを投じる方針だと表明した。

買収を実際に行うＨＳＢＣ英国部門は発表文で、買収資金は既存のリソースで賄われると説明。クイン氏は買収が「戦略的な合理性」にかなうと表現し、テクノロジーや生命科学業界における同行の地位を改善できると語った。

ＨＳＢＣの広報担当者は資本注入について確認した。

クイン、スチュアート両氏はＳＶＢ英国部門の経営に大きな変更はないことを電話会議で示唆したと、英ベンチャーキャピタルのローカルグローブでゼネラルパートナーを務めるスザンヌ・アシュマン氏は指摘。「われわれが得た安心は、とてつもなく大きい」と述べ、ＨＳＢＣは「買収した企業のＤＮＡを失いたくはないだろう」と続けた。

ＨＳＢＣはＳＶＢのブランドを残すのか、独立した部門として運営するのか明示していない。ＨＳＢＣの発表文によると、ＳＶＢの英部門には今月10日時点で約55億ポンドのローン債権と67億ポンド前後の預金がある。

週末の交渉

ＳＶＢ英部門の破綻を回避するため取引をまとめようと、週末には英政府が仲介に奔走していた。同部門は多くのテクノロジー企業にとって重要な貸し手で、サービスも提供していた。

ＳＶＢとその英国部門の健全性に対する不安は、10日に強まった。英国のスタートアップ企業は米新興企業と同じく同行からの資金引き揚げを模索したが、ほとんどの企業に対してＳＶＢからの反応はなかった。

同日午後にソフトウエア企業ノーズ・アンド・リンクスの創業者、グレグ・ロートン氏は財務責任者をＳＶＢのロンドン本部に差し向けた。だが、取引を処理できる者が誰もいないとＳＶＢの従業員に説明され、追い返されたという。

親会社のＳＶＢファイナンシャル・グループが増資に失敗し、大規模な資金引き揚げが起きた同日遅く、イングランド銀行（英中央銀行）はＳＶＢ英国部門の破産手続きを裁判所に申請する方針を発表した。

従業員に給料が払えなくなる可能性を一部のテクノロジー企業経営陣が心配し始める中で、11日の早い時間には業界で協調したロビー活動が現れ始めた。業界全体でＳＶＢ英部門にどれだけ預金があり、これまで月々に費やした資金はいくらかなど重要なデータを業界団体が中心となってまとめ、政府に情報を提出。一方、起業家や投資家は、預金が失われれば「業界はまひし、業界のエコシステムは20年後退する」と警告する公開書簡をハント財務相に送った。

事情に詳しい複数の関係者によると、これと並行してＳＶＢ英部門が起用したロスチャイルドが、13日に金融市場が開く前の売却成立を望ましい選択肢として、複数の企業に接触した。

ハント財務相を含む当局者が関わる中、別の選択肢も複数検討された。テクノロジー業界の大規模な混乱を防ぎ、市場を落ち着かせようと、ＳＶＢ英部門の預金者引き受けの案も英財務省と金融機関の間で協議された。

中東の投資会社や英決済銀行のバンク・オブ・ロンドン・グループ、英銀オークノースなど他社からも関心が寄せられたが、ＨＳＢＣが12日に買収を提案し、最有力候補として急浮上した。規模の大きさや、政府保証を求める意向がなかったことが決め手となった。

事情に詳しい関係者によると、スナク首相とＨＳＢＣのマーク・タッカー会長との電話会議なども経て、ＨＳＢＣは12日深夜に取引を承認するため取締役会を招集した。最終的な詳細が固まり、買収が発表されたのは13日の市場が始まるわずか１時間前だった。