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概要:Peter Thal Larsen Aimee Donnellan [ロンドン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ダブリンの空に、再び建設用クレーンがそびえるようになった。悲惨な資産価格の暴落から10年、アイルランドの首都では、再び猛烈な勢いで建設工事が行われている。アイルランド紙アイリッシュ・タイムズは今年1月、同紙のオフィスから100基以上のクレーンを確認した。3年前の3倍である。 新たなオフィスビルやショッピングセンターの建設ラッシュが起
Peter Thal Larsen Aimee Donnella
[ロンドン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ダブリンの空に、再び建設用クレーンがそびえるようになった。悲惨な資産価格の暴落から10年、アイルランドの首都では、再び猛烈な勢いで建設工事が行われている。アイルランド紙アイリッシュ・タイムズは今年1月、同紙のオフィスから100基以上のクレーンを確認した。3年前の3倍である。
新たなオフィスビルやショッピングセンターの建設ラッシュが起きていることは、「エメラルド島」とも称されるアイルランドの経済復活を証明している。英国で事業を展開する企業にとって、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の拠点を探すうえでダブリンは最有力候補となっており、英シンクタンクのニューフィナンシャルのデータによれば、すでに100社がダブリンに拠点を設けているという。
ロンドンの金融街シティから事業の移転を進めている英大手銀行バークレイズ(BARC.L)や米金融大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)(BAC.N)が、米アルファベット傘下のグーグル(GOOGL.O) や米フェイスブック(FB.O)といったテクノロジー企業と事業用地やオフィスの争奪戦を繰り広げている。他のユーロ圏諸国では景気が減速しているのに、アイルランドの国民総生産(経済の開放度を考えれば、国内総生産よりも精度が高い)は、昨年5.6%の成長を示した。
だがその復活が、アイリッシュ海を挟んだ政治的混乱によって脅かされている。
英国が3月29日に合意無しにEUから離脱するリスクが消費者心理に重くのしかかり、海外投資を滞らせているからだ。金融機関や一般企業の経営者のあいだには、合意なきブレグジットで英領北アイルランドとの国境管理が再び厳格化されれば、かつてのような暴力的な宗派対立が再燃し、ダブリンにも影響が及ぶのではないかと懸念する声もある。
ブレグジットは、アイルランドを経済的な試練に追い込んでいる。
アイルランド政府は、一方では、現在ロンドンに拠点を置く銀行や保険会社、ファンドマネジャーのEU内での新拠点確保のニーズによる恩恵を被っており、バラ色の未来へ向かおうとしている。シティグループ (C.N)傘下のシティバンクとバンカメは、在英子会社をそれぞれの既存のアイルランド事業部と合併させ、資産総額500億ドル(約5兆500億円)以上という、相当な規模の現地法人を創設した。バークレイズでは、最大で2500億ユーロ(約31兆円)相当の融資やその他の証券関連業務を、新設したアイルランド事業部に移転させる計画だ。
これらの事業所は単なる看板ではない。アイルランド政府やEU金融当局からの圧力を受け、これらの金融機関は主力スタッフもダブリンに移しつつある。
たとえば、バンカメのブルース・トンプソン副会長も、今やダブリンを本拠とする企業幹部の1人だ。ブレグジット交渉の結果如何にかかわらず、こうした動きがすぐに反転することはないだろう。
これまで、こうした銀行の雇用はほぼ常にロンドン中心だった。現在ではダブリンが、パリやフランクフルトの新たなトレーディング拠点と並んで、シティと人材や資金を奪い合っている。またニューフィナンシャルによれば、ダブリンは資産管理会社の誘致においても頭一つ抜けており、ブレグジット後の拠点を求める英国企業の43%がダブリンに集まっているという。
このミニブームは1900人以上の職員を抱えるアイルランド中央銀行にも及んでいる。同中銀は、辛い過去を記憶するかのように、リフィー河岸に建つ人目を引くビルを占拠している。当初、金融機関としてアイルランド史上最悪の経営破綻を起こしたアングロ・アイリッシュ・バンクが入居する予定だったビルだ。
だが、雇用創出という点では、金融機関とは比較にならないのがテクノロジー産業だ。
アイルランド中央統計局によれば、このセクターの雇用数は現在33万2000人で、10年前より75%増加している。国庫管理庁がまとめたデータによれば、フェイスブック、米アップル(AAPL.O)、 米アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)、グーグルの4社が合計で1万8500人をアイルランド国内で雇用している。アイルランドは多国籍企業が節税目的のためだけに設立するダミー企業の聖地とされていたが、そうした国際的な悪評を否定する数字だ。実のところ、現地のエコノミストらによれば、税務調査が厳しくなったせいで現実にダブリンへの事業移転を加速させた企業も一部にあるという。
だが、ブレグジットは成長のブレーキになるだろうし、アイルランド経済が暗闇に陥ってしまう可能性さえある。
昨年、アイルランドからのモノの輸出の11%は英国向けで、アイルランドの輸入の5分の1以上は英国からの輸入品が占めた。その相手国とのあいだで貿易摩擦が少しでも増加すれば、アイルランドの経済成長も減速してしまう。アイルランド中銀の試算によれば、秩序あるブレグジットになったとしても、アイルランドのGDPは1.7%減少するという。混乱を伴う「合意なき」ブレグジットともなれば、初年度にアイルランドの成長率は4ポイント下がり、景気回復は事実上ストップしてしまう。
確かに、2年間で生産量が1割以上も減少した10年前に比べれば、現在のアイルランドは経済的ショックに対応する体制が改善されているのは事実だ。借入を重ねた挙げ句に崩壊した当時とは異なり、最近の景気回復はほぼ債務に頼っていない。対GDP比で見た政府債務総額は、ピーク時の125%以上に比べ、2018年第3四半期には69%に下がり、家計の債務返済も進んでいる。アイルランド銀行(BIRG.I)とアライドアイリッシュ銀行は昨年、金融危機後で初となる総融資残高の増加を報告した。
だが、たとえ秩序無きブレグジットが経済に与える直接的な影響に耐えられたとしても、潜在的な政治への後遺症は耐え難いものになるだろう。円満な離脱を確保できなければ、ほぼ確実に、英国の一部である北部諸州とアイルランドのあいだには再び国境が設定される。この国境地帯は、1998年の「ベルファスト合意」によって終息するまで、数十年にわたって暴力と犯罪にさらされてきた。
ダブリンの企業経営者らは、国境管理の厳格化は、20年前まで北アイルランドの日常となっていた政治的暴力が復活する契機になるのではないかと恐れている。そうなれば、アイルランド経済回復の頼みの綱である外国人投資家が脅えて逃げてしまう。そう考えれば、アイルランド政界がほぼ一致して、国境管理の厳格化に反対するバラッカー首相を支持しているのも頷ける。また同首相の主張は、これまでのところ他のEU諸国からも支持を得ている。
英国が秩序あるブレグジットを達成できれば、アイルランドとしては投資の誘致により英国の成長鈍化を相殺することができるはずだ。アイルランドは英語を公用語とする唯一のEU加盟国となり、法制度も英国に似ている。だが、英国の政治家たちが秩序なきブレグジットの可能性をもてあそんでいる限り、この諸刃の剣がもたらすアイルランドの悩みは尽きないだろう。
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